コラム
旅する建築 – ベトナム

街を歩いていると、ふと「この家はどんな人が住んでいるのかな」と思うことがあります。
お店の奥に見える台所、階段の途中に置かれた植木鉢、すこしゆがんだ窓枠。
少し古びていたり、誰かの手が加えられていたり、そんな建物が気になります。
今回旅したベトナムでは、たくさんの建物と出会いました。
歴史と人と時間が、建物の中で重なっている!と感じた、旅の記録です。
木を組んで建てた、時を重ねる家
― ホイアン旧市街・フーンフンの家と日本橋
フーンフンの家は18世紀末に建てられた商家で、1階は商売の場、2階が住まいという、ホイアンらしい町家のかたち。
釘を使わずに木を噛み合わせる「組み木構造」は、日本の建築によく似ていて、 江戸時代に日本人町があった気配が建物に残っていました。
天窓から光が射し込み、風が通り抜けていきます。
木の構造が力強く家を支えながら、風や光といっしょに暮らす設計がされていることに、住み続けられてきた理由があると感じます。
そして歩いてすぐのところには、かつて日本人が関わって建てた木造の橋、日本橋(チュア・カウ)が400年前の姿を今に残しています!
屋根のある橋には龍の装飾や祠があり、日本・中国・ベトナムの建築が一つのかたちにおさまっていて、三つの国が肩を寄せ合っているみたいでした。
外観にあらわれる暮らしの工夫
― ハノイ旧市街・チュウ・カウ住宅
間口はわずか2、3メートル!奥へ奥へと深く続いていく“うなぎの寝床”。
ハノイの旧市街は、細長い家がぴったりとくっついて建ち並んでいます。
フランス統治時代に、土地の税金が間口の幅で決まっていた名残だそうで、人が暮らすために重ねてきた工夫がつまってます。
家の正面には、鉄格子やバルコニー、看板や電線、そしてグリーン。
ごちゃまぜのようで、どこかに調和があって、建築が生きもののように感じられます。
時を重ねて、住み継がれるホテル
― フエ・ラ・レジデンス・ホテル&スパ
この建物は、フランス領時代の総督官邸として建てられたコロニアル建築で、今は旅人を迎えるホテルとして使われています。
アール・デコらしい直線とシンメトリー、赤と黒で整えられた空間には、昔の空気がそのまま漂っていて、時間がゆったりと流れていくようでした。
古い建物を残すというのは、その場所に積み重なってきた歴史や記憶を受け継ぐことなのだと、しみじみ思いました。
壊れたものを、美しく並べる
― フエ・カイディン帝廟
霊廟の中は、天井も壁も、陶器やガラスのかけらが色とりどりに並んでいて、光を受けてきらきらと輝いていました。
そのモザイクのなかに「SAKE」と書かれた日本の陶器片を見つけました。異国の地で知っていることばに出会うと、なんだか胸がぽっとあたたかくなります。
こわれたものを、もう一度ていねいに並べて、ちがうかたちでよみがえらせる。
そうやって新しい世界をつくり出す、それも建築の力だと思います。
建物じゃない場所に生まれた建築
― ハノイ・トレインストリート
列車が来ない時間、線路は人の道になります。
カフェの椅子が線路際に並べられ、観光客が写真を撮ったり、近くに住む子どもたちが遊んでいたり。
ここは「建物」ではないけれど、人が工夫して使い、日々暮らしているという点では、「これも建築なんじゃないかな?」と思えてきました。
建築と人とのあいだ
ベトナムの旅で出会った建物たちは、「暮らしてきた跡」が残っているものばかりでした。
そして、なんといっても人が優しい。
どうやって食べるか分からなかったバインセオ。思い切って店員さんに「これ、どうやって食べるんですか?」って聞いたら、席まで来てくれて、作り方を丁寧に教えてくれました。
パリパリの皮に、たっぷりの具。香草と一緒に巻いて、タレにつけて食べると…おいしすぎる!
味はもちろん、何よりもそのやさしさに心がじんわり。
こんな素敵な人々が住んでいる国、ベトナム。
そこで生きてきた人たちのことを感じた旅でした。