家づくりの知識

2024.12.03

日本の断熱基準について


日本の断熱基準は「低基準」―家づくりの未来が問われている

日本の住宅は「冬は寒く、夏は暑い」と言われることが少なくありません。その大きな要因は、断熱性能が国際基準から見て著しく低いことにあります。断熱性能の低さがもたらす影響は、単なるエネルギーの無駄遣いにとどまりません。健康被害や住宅寿命への悪影響、さらには資産価値の低下にまで及びます。このコラムでは、日本の断熱基準の低さを具体例とともに掘り下げ、その改善の必要性を考えます。


1. 他国との比較:日本の断熱基準はどれほど遅れているのか?

ドイツの場合:環境を守る家づくりが標準

ドイツの断熱基準は非常に厳格で、UA値(外皮平均熱貫流率)で0.20~0.30程度が義務付けられています。これは日本の「断熱等級4」(UA値0.87)と比較すると約3倍の性能差があります。さらに、ドイツではトリプルガラス窓が標準的に採用され、窓からの熱損失を最小限に抑えています。

  • 具体例
    ドイツの新築住宅では、冬でも暖房がほとんど必要ない「パッシブハウス」が主流です。パッシブハウスは、室温が年間を通じて安定し、エネルギー消費を極限まで抑えます。一方、日本では寒い冬にガスや電気ヒーター、夏にはエアコンをフル稼働しなければ快適に過ごせません。このエネルギー浪費の差は、国民全体の生活コストに大きな影響を及ぼしています。

スウェーデンの厳冬地仕様

北欧のスウェーデンでは、極寒の冬に対応するため、UA値が0.10~0.15程度の住宅が一般的です。これにより、室内の温度差がほとんどなく、エネルギー消費を最低限に抑えることができます。

  • 具体例
    スウェーデンの家では、高性能断熱材と樹脂サッシ、さらに外壁の多層構造が一般的。これにより、家全体がサーモスボトルのような役割を果たし、冬でも外気に影響されず快適です。一方、日本では窓からの冷気侵入が大きな課題で、アルミサッシの家では窓際が凍えるほど寒くなることも。

2. 現行基準がもたらす健康被害

ヒートショックの具体例

日本の家は部屋間の温度差が大きく、特に浴室やトイレが寒いことが原因でヒートショックによる死亡事故が後を絶ちません。ヒートショックは急激な温度変化により血圧が変動し、心筋梗塞や脳卒中を引き起こします。

  • 具体例
    冬場、暖房の効いたリビング(室温20度)から浴室(室温10度以下)に移動した際、血管が急激に収縮し、高齢者が倒れるケースが増えています。これは断熱性能が不十分なために家全体の温度が均一化できていないからです。

結露による健康被害

日本の住宅でよく見られる「窓の結露」は、単なる不快感にとどまらず、健康にも悪影響を及ぼします。結露はカビの発生原因となり、アレルギーや喘息などの呼吸器疾患を引き起こします。

  • 具体例
    冬場に発生した結露が壁材や床材に浸透し、内部でカビが繁殖するケースが報告されています。このカビが目に見えない場所で増殖し、住民の健康を徐々に侵害します。

3. 住宅の劣化と資産価値の低下

建材の劣化

低断熱の住宅では、結露が断熱材や木材にダメージを与え、建材の劣化を招きます。これにより、住宅の耐久性が損なわれ、リフォームや建て替えのコストがかさむ結果となります。

  • 具体例
    築15年の木造住宅で壁内に結露が原因のカビや腐食が発生し、壁を全面的に修復する工事が必要になった例があります。これは断熱材が不十分で、壁内の温度差が大きかったためです。

資産価値の低下

高断熱住宅が標準となる中で、断熱性能の低い家は将来的に売却が難しくなる可能性があります。例えば、近年では「ZEH(ゼロエネルギーハウス)」のような省エネ住宅が注目され、断熱性能が低い家の価値が相対的に下がる傾向にあります。

  • 具体例
    同じエリアで築10年の住宅を売却する際、断熱性能が高い家(ZEH認定)は市場価値が維持される一方、断熱性能が低い家は買い手が付きにくいという現象が起きています。

4. 日本の断熱基準が変わらない理由

産業構造の問題

日本では、安価なアルミサッシや簡易断熱材が長年標準として使用されてきました。建材メーカーや工務店がこれらの慣習に依存しており、技術革新が進みにくい状況です。

消費者の無関心

消費者が断熱性能の重要性を理解していないことも一因です。初期費用を抑えることが優先され、断熱性能が軽視される傾向があります。


5. 未来への提言:断熱性能を「最低基準」から「誇れる基準」に

日本の住宅業界は、断熱性能を「贅沢品」ではなく「最低限の必需品」として認識する必要があります。具体的な改善策として以下を提案します。

  1. 基準の引き上げと義務化
    UA値0.87ではなく、少なくとも0.30~0.40程度を義務基準とし、全ての住宅で適用するべきです。
  2. 断熱性能に対する消費者教育
    断熱性能が健康や光熱費削減、資産価値向上に直結することを広く周知する取り組みが求められます。
  3. 政府による補助金制度の充実
    高断熱住宅を推進するために、建築費の補助金や税制優遇をさらに拡大するべきです。

最後に

日本の住宅の断熱性能は、住環境の質、健康、エネルギー効率、資産価値のすべてに影響を及ぼします。このまま現状を放置すれば、国内住宅の評価は「低基準住宅」として国際的に後れを取るだけでなく、私たちの暮らしそのものが脅かされます。今こそ、断熱性能を本気で見直し、未来のために行動を起こす時です。


この内容が、断熱性能向上の重要性を訴える一助となれば幸いです。

 

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