コラム

2024.06.02

新一宮モデルハウスでの対面取材:3部作~建築家と工務店と施主と~【第2章】

この度完成した【新一宮モデルハウス】。こちらの設計者である建築家・稲沢謙吾先生にお越し頂き、設計段階からの逸話と作り手として河合社長の家づくりのこだわりを語るインタビューを行いました。

これから見て頂く方にも、またすでに見て頂いた方にも語りつくせない建築家デザインのエッセンスの詰まった熱いトークが繰り広げられました。

とても濃密なインタビューになったので、3部構成でお届けします。今回は第2章になります。

前回(第1章)をお見逃しの方はこちらへ

登場人物:

建築家:稲沢謙吾先生(以下、稲沢)

工務店:河合社長(以下、河合)

施主:村田

進行:小林

建築家からのバトン、つくるうえでの苦悩。

小林>できあがってしまった後の話になりますけど、本当はつくる前の話とか、つくっている過程でのやりとりが、もうちょっとできるといいですよね。

稲沢>そうですよね。プロパーだと、それが普通ですもんね。基本的には週一現場での定例打合せがあるので、現場で打合せすることがほとんどなので。(※ここでのプロパーとは設計事務所窓口の建築案件のことを言います。)

小林>社長は現場で打合せできればそれで進められると思いますが、そういった進め方でない場合、「これでよいかな」と思い悩むことはありますか?

河合>しょっちゅうですよ。最初先生から図面を頂いて、お客様と話していく上で変わることがあるじゃないですか。それが実際は正なのかな?とは思います。もちろん使い勝手だったりを加味することは大事ですが、先生の意図が入っている状態で変化していっているのか、度外視してしまっていやしないか?お客様の気持ちを置き去りにするわけではないけど、やはり設計される建築家のつくり手としての想いも大事にしたいと思いますね。だから最終的に出来上がった図面をもう一度先生にフィードバックして本当にこれでいいですかって聞いてみたいですよね。

稲沢>それはやりたいですよね。やればやるほど精度は上がってくんだろうなと思います。

河合>R+houseというのはこうやって建築家の先生方と出会える場としてはすごい有難い仕組みだと思うんです。その後って僕たちが責任もってつくっていくものなので、絶対に必要だと思います。

建築家が考える窓のこだわり

小林>今回、先生に一番お伺いしたかったのが、窓についてです。稲沢先生って窓を単発で正方形のものと、連続してつなげる窓と使い分けられていると思うんですけど、窓のセレクトの仕方にどんなこだわりがありますか?

稲沢>僕は窓を全部同じデザインにするのが嫌いで。好き嫌いですね。コンポジション。面の中にバラバラと窓がついているデザインが好きで、シンメトリーだったり、何か整えることが不自然さを感じる。作為的すぎると感じるときがあるんです。なので、僕は窓のデザインって外観から解くことがないんですね。室内からどういう景色が見える、どういう風が通る、どういう光の入り方をするっていうことから窓の位置を決めたものが外観になる。そうするとあんまり揃えることがないんです。だけど、周辺環境から特に2階の北側の窓は横長の窓を同じ高さで揃えることで、県道沿いのスピード感みたいのを意識したり、でも1階もそれをやるとちょっとくどいし、シンメトリーでやりすぎになってしまうので、四角い窓で塊のように見えるように整えたりしてますね。

小林>建物の正面に植栽をしたときに、目隠しの木塀があまりに隠しすぎていたときに先生に相談させて頂きましたが、あのときに真っ先に「真四角でしょ」って仰ったのが、とても印象的だったんです。先生の中で真四角の窓を用いる意味って何ですか?

稲沢>一番、強度を感じるっていうのか、強さを感じる窓ですかね。組積造の中に開ける窓としては横長よりは四角だろうし。僕は組積造というか壁を意識することが多いので、その中で横長の窓ってよっぽどの理由がない限り使うことがあまりなくて、なのでちゃんと強度を担保する窓っていうそんな感じですかね。

河合>すごいですね。いろんなことを考えているんですね。

稲沢>窓ってみんな大切な要素だと思うんです。景色を愛でるということから言えばあった方がよくて、でもなくすことで暗い壁ができて、明るいところとの対比ができてというのもありますね。

空間構成・設計プロセスを紐解く

小林>この家って敷地条件からもなんとなく総2階に近い形なんじゃないかなとスタートしたと思うんですけど、ヒアリング段階で1,2階のバランスがどうなるんだろうなと思って、心待ちにしていたんですけど、2階LDKも珍しいとは思いますが、そこに寝室もあったり、かなり変わった部屋の構成かと思います。どういった経緯でこういう構成になったんですか?また、村田さんはこのプランを見た時にどんな感想を持ちましたか?

稲沢>2階リビングの場合に2階に寝室を持ってくことがレアなケースかもしれないですけど、まずは1階に子供部屋は想定なんですけどね。まだ、お子様がいらっしゃらなくて不確定な中で例えばお友達が遊びに来た時に土間・ホールから居酒屋のような感じで集まって使えるフリースペースとして計画したときに、総2階ベースで考えた時には1階に寝室を設ける場所がないのもありますね。だから必然的に2階にこざるを得なかったということと、あと村田さんの趣味室との寝室との連続している感じがいいかなと思ったんですよね。寝室も趣味室もどちらかというとプライベートな空間でそこの天井高さを抑えた空間で領域を分けて、空間が大きいところはLDKとしてみんなが行き来する空間として分けたというのはありますね。

河合>あそこは散らかす部屋なの?笑

村田>散らかしてもいい部屋です!家事の合間にいちいち片づけずに、そのままでいられるようにです。

稲沢>片づけていると時間のロスもあるしね。

村田>そうですよ。だからやりっぱなしで、散らかすとは別です。

稲沢>でも、ここ(LDK)からはやりっぱなしの状態も見えないですよね。うまいなと思って。そんなに見えなくて、そういう意味ではこの大黒壁も効いていますね、意図通りだな、笑。それにあの籠った感じと緑が見えている感じは素敵ですね。造園計画もきれいですね。

2階リビングという選択のプロセス

小林>ここはもうはじめから1階リビングではなく、2階リビングで解きにいったんですか?

稲沢>県道が近すぎるところにリビングはないかな、あと南側の景色を最大限取り入れられるようにということで、あまりやらないんですけど連窓として計画しましたね。

小林>引違窓は使わないですか?

稲沢>僕は引違い窓に抵抗感があって、気密性の問題とかあと網戸の問題とか、窓の面積の半分が網戸になることが抵抗あるんですよね。景色を愛でたい窓に網戸がついていることがちょっと残念だなと思うので。

小林>全部FIXにしようとかはないんですか?

稲沢>その勇気はないですね、笑。拭けないとかね。

求められる「施主力」とは?

小林>設計者っていろんなことを住まい手から求められるじゃないですか。逆に設計者から住まい手に求めることってありますか?

稲沢>お施主さんっていろんなタイプの方がみえるじゃないですか。言った通りやって欲しい人と提案をすごく期待してくれる人とか。僕は最近の建て主さんは「施主力」が弱いんじゃないかなと思います。すごく漠然としているんですけど、設計者に依頼しているのに全部自分でプランするんですよ。こういう風にやってくれって。それって設計者に何を期待しているのかわからないし、お金を使っている意味がどこにあるのかなと思うので、肝心な自分たちは何がしたいのかが曖昧で、例えば「アイランドキッチンにしたい」というのは2次的なもので「なんでアイランドキッチンにしたいのか」というところが大事なわけで。そういうのを深堀して家族間でちゃんと答えを出して伝える力が最近の人は特に弱いなと思います。

小林>それは世の中に情報が多すぎるということですか?

稲沢>それですね。それが自分にあったスタイルなんだと思い込んでしまう。合っているかどうかという検証はされてないんだろうなと思うので、なんかそこを家族間で話し合えるそんな建て主さんが増えてくれたらいいなと思います。

小林>モデルさんが着ているからカッコいい洋服が自分もそれが似合うと錯覚するみたいな。

稲沢>個性と勘違いしているというのもあるかもしれませんね。担当スタッフさんとある程度事前にそういう掘り下げた話ができていると建築家とつくる家ってこういうことなんだっていうのがあらかじめ見えているとお互いハッピーな3回の打合せになるでしょうね。これがモデルになって実棟になるっていうとこういう空間欲しいっていうお客さんも出てきますよね。そうなっていきたいですよね。なんか、本当に家の中の全体の構成として偽物が少ない。玄関の土間もモルタルっていう素材ですし、本物をあらわす構造体もそうですよね。本物の家を目指したいなぁって今回は思いました。それをちゃんと形にして頂けたのはうれしいですね。

小林>ごまかし効かないですからね。構造が意匠なので。

稲沢>クラックが嫌だからタイルを貼るのでなく、素材をそのまま受け入れるお施主さんに影響されて仕上げていくという風になるとこうなるんだと思います。ケミカルなものでつくるのも状況を考えればないことはないけど、そればかりで仕上げていくのは、住宅ってそうじゃない気がしますね。自然な素材を使う方が素直な住宅なんだろうなと思います。僕も住みたいもんこの家。

家のベストなサイズ感は〇〇坪?

小林>4人家族の一番心地いいサイズ感や設計するうえでの限界値ってありますか?こちらのモデルハウスの坪数は14+14の28坪で、河合工務店でも30坪を切っているお家が割と多いんですよ。

稲沢>僕の中では28坪の中にちょっとした吹抜や広い土間があるのが正解だと思っていて、吹抜とかをなくせば25,26坪で設計はできるんだけどゆとりのある空間にはならないだろうなと思いますね。今回は28坪ですけどこういうゆとりの空間をつくるかつくらないかはありますが、28坪で吹抜があって、広い土間があることをもったいないと思う人にこういう提案したら、もったいないから広くしてって要望が返ってくると思うんですけどね。

小林>世の中には35坪くらいの大きさは欲しいんですって方もいますが、いかがですか?

稲沢>35坪ってでかいですよね。僕今までで数件しかやったことないですね、35坪。

村田>だいたい他社さんで提案されているのが35坪くらいなんですよね。

小林>僕らは建築家と作る家が定番になっているのでより小さく作りたいっていう発想がでるんですけどね。26、27坪くらいの住宅が結果よくなる可能性が高いというか、無駄なく納まっているサイズ感かもしれないですよね。複雑な要望がうまく解ける感覚って、どれくらいのサイズ感が一番無駄ない感じですか?

稲沢>うーん、26、27坪かな。それぐらいが気持ちいい。はまったって感じがする。あとプランの密度って結構大切だと思っていて、重力というか。35坪ってふわってしていて家のどこに居ていいか分からないような気がしていて。でも26、27坪ってなるとここが家の重心だよね、核だよねってのがわかってくる。そういうのが明確に見えてくる。ここは明らかにキッチンまわりと大黒壁が重心になっているので、そういうところをつくるのに26、27坪かなって感じはしますね。35坪だとそこに引き寄せられない感じはしますね。

小林>広ければいいという感覚より、大事なのは家族の距離感ですよね。

稲沢>そうそう。

小林>コンパクトにできることで家族それぞれのちょうどいい距離感というか、間延びしないコミュニケーションをとるうえで必要な距離感が得られるんですよね。

稲沢>確かにね。35坪って大きすぎて引き寄せられないもんね。

小林>でもそれで狭いという風に思われたくないので、中間領域とか外と中との関係性をうまく解いてくるのが建築家の仕事かなと思いますね。中だけで解くのは図面として見ていても面白くないというか。それでいうと今回は動線的に中と外とで行き来する場所はないですよね。はじめから出ないというね。

村田>緑が見えればそれでいいんです。

小林>今回僕が一番予想外、だったのがこの景色なんです。(南側に広がる緑、奥の竹林など)。スタッフ3人で敷地購入を決める前に見に来た時には3人ともこの土地で大丈夫かな?って感じだったんですよね。

河合>そうそう、全否定。

稲沢>へー、そうだったんですね。

小林>でも、あのときは見えなかったけどこの景色があることで意識として外とつながれているからわざわざ物理的に外に出られることを重要視しなくてもいいよね。中間領域というのは家のサイズ感を左右する大切な要素ですよね。