コラム

2024.05.24

新一宮モデルハウスでの対面取材:3部作~建築家と工務店と施主と~【第1章】

この度完成した【新一宮モデルハウス】。こちらの設計者である建築家・稲沢謙吾先生にお越し頂き、設計段階からの逸話と作り手として河合社長の家づくりのこだわりを語るインタビューを行いました。

これから見て頂く方にも、またすでに見て頂いた方にも語りつくせない建築家デザインのエッセンスの詰まった熱いトークが繰り広げられました。

とても濃密なインタビューになったので、3部構成でお届けします。

第2章はこちら

登場人物:

建築家:稲沢謙吾先生(以下、稲沢)

工務店:河合社長(以下、河合)

施主:村田

進行:小林

難解な敷地条件に向き合う建築家の思考を紐解く

小林>まずは、敷地についてですが、そもそも社長はこの敷地を選んだ決め手は何だったんですか?

河合>変形地で東西に長くて、とにかく周りの交通量も多い。南側には大きな家があって、採光面でもとても難しい土地なんですが、そこは建築家の腕の見せどころのような気がして直感でここだと思いました。まず、不利な状況でつくりたいっていう前提があって、難がないと先生の力を活かしきれないと思ったんですね。台形で、目の前に建物があって。敷地内にも古ぼけた小屋があって、あとは土地代も安かったですしね、笑。周辺環境も138タワーや公園があって、いい条件だとは思うんですよね。

小林>稲沢先生はこの敷地を見てどんなことが手掛かりになると思いましたか?

稲沢>事前に難しい土地だとは聞いていて、ちょうど雨の日に見させて頂いたんですけど、どんよりとした天気の中、目の前に隣家が建っていて、なんて土地だと絶望的な気持ちになりました、笑。ですけど、古家の倉庫の裏側に緑がわさっといい雰囲気があって、そっちを向いて暮らすのはありかなと思ったんですよね。土地のポテンシャルとしては相当高いものがあるなと思いましたよ。あとは、街並みですね。のこぎり屋根だったり、瓦屋根だったり、昔ながらのテイストが残っているので、それを建物のデザインにも活かしたいなと思ったので、今回の屋根形状にも反映されていると思います。

偏心切妻屋根の落ち着いた佇まい

小林>社長から見て特に今までの河合工務店の建築実例と違う点は何だと思いましたか?

河合>外観としてはやはり偏心切妻ですよね。普通なら整形の切妻屋根形状ですが、わざと崩していることでプレカット(木材加工)の上では何回も打合せを重ねて複雑な形状は珍しいですかね。

稲沢>あとは太陽光を載せたいという要望があって、南面の屋根を広くしたいというのもありましたね。ただ、太陽光のことだけを考えると片流れの方が最大限とれて有利ですが、そうすると街並みにはそぐわないかなと思ったので、街並みに合わせながら太陽光も載せながらの最適解として、街に溶け込むようにするにはいいデザインだと思います。あとは、階高。あえて、母屋下がりをして建物全体の重心を下げることで落ち着いたプロポーションというのも考慮して設計しました。

内部を貫く「大黒柱」ならぬ「大黒壁」の存在

小林>中には入るとだだっ広い玄関土間。そしていきなりあらわれる特徴的なベニヤ仕上げの壁ですが2階まで繋がっていますね。

稲沢>私は小さい家であればあるほど、今回の土間のように目的を持たない場所をつくるのが癖ですね。あとは家の中に軸となる部分をつくるのが癖でもあります。コアであったり、拠り所ですね。それが今回はこの壁にあらわれています。この壁は家の中を貫いているものでもあるし、支えているものでもある。そういうのを表現するのは癖かもしれないですね。

小林>軸をど真ん中に持ってこないというのはなぜですか。

稲沢>シンメトリーが嫌いでどこか崩したくなるんですよ、笑。建物の中心でなくても家族の中心であればいいと思うんです。家に帰ってきてまず見えて、支えられている様子を感じられるというのは大切かなと思います。あと支えているその素材というのも吟味するところで建築の化粧材としてはあまり使わないラワン合板もうまくカタチにしてもらえているなと思います。

小林>社長は作り手として、このラワン壁をつくるにあたってどんなことに気を付けましたか?

河合>これシンプルですけど、難しいんですよね。木目もそうですし、色目もそうですが、仕入れから気を使って選ばないと、ごちゃごちゃになっちゃうんですよ。

稲沢>ほんと、そうですよね。社長はこれをきれいにつくりたかったんですよね。

河合>そうです。私はきれいに仕上げたいというのがあります。

小林>プレゼン模型の段階から木目でしたよね。これはどの段階から決めてたんですか?

稲沢>はじめからありましたね。貫いている部分は平面的にも断面的にも好きなんですが、先ほど言いそびれたんですが、社長はきれいにつくりたい、でも、僕は逆に荒々しく作りたいんです、笑。木目も荒かったり、貼り方もあえてラインを揃えずにわざとバラバラに貼ることで何か力強さみたいなものが欲しいという気持ちもあるんですよね。でも、これを拝見してこれもひとつの答えだなと思うんですよね。この答えが家全体を貫いている気もするんですよ。ここだけそれじゃだめだと思うんです。ここだけ荒くつくるんじゃなくて。そうすると照明器具だったり、その他の設えだったり全部変わってくると思うんですよね。だからこれはこれでデザインとしてきれいに納めるというのが貫かれていて、とても透明感のある家ですよね。

施主から見る建築家デザインとの初対面

小林>村田さんはプランをはじめてみた印象はどうでしたか?

村田>私多分この壁のことについては触れてないと思うんですよね。よくわからなかったんです。でもきっと先生の強いこだわりというか想いなんだろうな、と思って。だから、クロス貼ってとか開口部塞いでとか、言えなかったです、笑。私は通し柱が好きなので、この貫いている感じはなんとなくわかるんですよ。大黒柱もすごく好きで、最近の家は化粧柱はたまにあるけど、割と壁で仕切られているお家が多くて、昔ながらのおばあちゃんちの柱に鉛筆で身長を刻んでいくようなそんな家族の拠り所になるような存在だと思ったんでいいなと思いました。あと私はそこまでDIY感というかクラフト感のある空間が好きなわけではなかったので、ちょっとどんな感じに仕上がるんだろう?は思いましたね。

稲沢>社長はどうでした?模型やプランを見てここが木の壁になることについて。

河合>すごいことをやってくれるんだと、笑。でも、土間が見せ場になるので、どうきれいに見せるか、特に貼り方で、板の勝ち負けだったり、この小口の見せ方とか、どう見せるのがベストなのかは考えますね。

稲沢>笑。でもそう思って頂けるといいものができるんですよね。面倒くさいってなっちゃいますからね。

小林>その他に意外な提案はありましたか?

村田>やっぱり全体の仕上げがこれなんなんだというのはありましたね。

稲沢>こんなって、笑。

村田>クロスじゃない仕上げ、ベニヤの壁ってあんまりないですよね。これが仕上げって。

小林>社長にも聞いてみたいんですけど、床がオーク、壁がラワン、あと化粧梁はベイマツ。いろんな木の種類がある中でどんなことを注意しますか?何と何は違っていい、ここは揃えたいみたいな思いはありますか?設計者と作り手としての違いもあると思いますが。

河合>木って流通しているもの使えるものがある程度限られているから、基本は樹種よりも色目で揃えていきますよね。色味が白いか赤いかが基準で、多いものに合わせていくって感覚ですかね。今回で言えば天井に見えるベイマツの化粧梁とか化粧垂木の若干ピンクかかった色味が強かったので、本当はこのラワン合板はもっと赤味がかったものでもよかったかもしれないですけど、ただ、赤となればなかなか揃いづらいというのと、アクが出たりとかで使いづらい面もあったりするので、今回の色味で揃えることにしたんですよね。

稲沢>でも、ラワンでここまで色味が揃っているのも珍しいですよね。選定したんですか?

河合>それは材料屋さんとも話したんですけど、必ず同じロットで揃えて納品して欲しいというのは口酸っぱく言って入れてもらいましたね。枚数もある程度余力を持って確保してほしいことも伝えましたね。

小林>2階の化粧野地板も揃っていますよね。

稲沢>揃っていますよね。ラーチ合板でここまで揃っているのはなかなかできない。

河合>そう。だから絶対にロットは揃えてくれと。

小林>大工さん、墨打つのもちょっとビビってましたもんね、笑。だからまだ、構造体の段階では、天井が仕上がるところは節有、化粧で見えるところは節無ですごくわかりやすかったですね。実際出来上がってきれいに仕上がったことに満足感はありますか?

河合>まぁ節有でぼこぼこと荒々しい感じも面白いかとは思いますけどね。

稲沢>それも、ありますね。でも、今の照明器具とこのラワンと野地板とで仕上がっている透明感を考えると、それを意図した空間としては正解だと思いますね。僕は実は木を全然揃えない方なんですよ。いろんな樹種を使うんですよ。だから、いろんな樹種が混在しているこの空間が心地よくて、林で例えると松林や杉林のようなひとつの木だけでできている林ってなんとなく退屈な感じがするんですね。そうじゃなくていろんな木があるよう雑木林な山の方がいいかなと思うんですね。

構造材あらわし、木質感あふれる開放的な空間

小林>では、2階に移動しましょう。河合工務店としてもここまで構造材をあらわしにしてつくることってあまりなかったと思いますが、この空間の特徴としてのイメージがどのようにして生まれたかを聞いてみたいです。

稲沢>僕は河合工務店さんのイメージって、正直これがあっていると思っていて、白くきれいな空間というよりも、上品な木質感が強く出ているのが合っていると思っているんです。あとは要望写真にもありましたしね。で、一番大きいのは社長に「攻めろ」と言われたことですね。

河合>言いましたね、笑。

稲沢>その攻めてくれと言われたときに、規格型住宅では攻めすぎているけど、それをやってみたいなと思いました。木造住宅なので木造らしいものをつくりたいと思うので、大黒壁もそうですし、偏心切妻も、化粧垂木もキュービックな建物というよりも、昔ながらのつくりの家だよというのを形も素材もデザイン的に活かすんだったらこの方法だったんですよね。あと、1間の母屋下がりってちょっと勇気いりましたね。低い天井高さ(2.1m)をつくるというのも。(※母屋下がりとは外側の桁が、他の桁よりも下がった状態をいいます。)

河合>そうですね。僕らも1間は少し怖いんですよ、笑。

稲沢>そうですよね。屋根は3寸勾配でしたっけ?

河合>3寸と4.5寸ですね。

稲沢>だから結構下がりますよね。

河合>そう、ぐっと下がる。90㎝下がるんで、結構怖いんですよね、笑。

稲沢>僕も怖かったんです、笑。でも、その対比として高いところができて、特に低い方はソファだったり、座の空間とすれば天井の低い空間の方がとても居心地のいい空間になると思ったんですよね。実際見て見たら、流石いい設計だったなと、笑。

河合>あと僕はすごく悩んだのがエアコンのつける位置ですよね。このリビング空間の中につけるのはちょっと野暮ったいかなと思って、それで小屋裏エアコンを採用しようと思ったんです。

稲沢>なるほど。それでエアコン配管が露出しないように隠蔽配管をしながら、目立たせないように配置したと、きれいに仕上げて頂きありがとうございます。

天井高さの違いによる空間の変化

小林>標準2.4mという天井高ですが、ここは廊下の一部のみほぼすべてが異なる天井高さですよね。2400mmというのは稲沢先生にとってどういう高さですか?

稲沢>僕は中途半端かなと思います。僕は一番好きな天井高さが2250mmなんです。これが一番好きですね。日本人ってそもそもそんなに立って生活するスタイルではないと思っているので、その場合下に座っているときに、2250mmだけだと窮屈に感じることもありますが、一部分吹抜をつくったりとか、窓の取り方にも工夫したり、そうすると2250mmの落ち着き感が出るんじゃないかなと。なので、ここは1階2400mmでしたっけ?

河合>そうですね。ここは場所ごとにいろんな天井高があって、変わってますよね。でも、縦の空間ができるのがいいですよね。実はデザイン的にいろいろと作りこんでいるわけではないけど、いろんな天井の高さの変化がデザインとなっていいのかなと思いますね。

大黒壁に開けられた象徴的な開口部

小林>ところでこれは何ですか?ヌックでもないし、ニッチでもないし、窓っぽいけど窓じゃないっていう。この案はいつからあったんですか?

稲沢>僕はこのプラン、間取りができてきたタイミングでここが大黒壁にくるのは決まっていたので、そこでキッチンのど真ん前に遮蔽してしまう感じはもったいない感じがしたんですね。そこに立ったときにやはり壁だと圧迫感というかあると思います。なので、この高さの設定はすごく迷ったんです。今のベンチのような高さにするか窓みたいな高さにするか、でも窓みたいな高さだと手摺みたいな感じがして、手摺には見せたくないなと思ったので、でも低い位置だとそこには落下防止のための手摺が必要になると、だったらそこにちょっと違った要素としてベンチみたいな形で、腰かけて上から見下ろすとか、下から見上げたときに腰かけている人と話ができる、そんな家族の中の会話のシーンを想像して、この高さとこのデザインに決めたっていうのはありましたね。ただ、手摺にはしたくなかったんですよね。でも、小さいお子様がいらっしゃるときには当然、危惧しなければならないので、そのときにこの格子を加工する必要があるでしょうね。でも、ここから座ってみる景色って立ってみる感じと違っていいですね。

できあがりは建築家のイメージ通りだったか?

小林>全体のできあがりのイメージは、そもそもの先生のイメージ通りですか?

稲沢>イメージ通りですよ。ちょっとメリハリをつけるという意味では空間の中で全体明るいんですけど、明るさの質というか、明るいとことちょっと明るいところと、色々と明るさが分散されていて、これでいいのかなという気がします。あとはあの窓(西面の横長窓)の扱いをどう解くかというのがあって、なくすっていうのもあったかなと思います。ただ、この県道のまっすぐ伸びている水平線というか、視線の動きだったり、デザインコードってこう水平なんですけど、こっちにも抜けるし、そっちにも抜けるっていう視線の抜けみたいなのを考えて設けたんですけど、家の中に入るとここは壁でもよかったのかなとも思います。

小林>ここ2階にくると東西南北すべてに窓があるって、なかなかないなと思うんです。

稲沢>そういうロケーションに家を建てるってなかなかないですもんね。