コラム

2024.01.26

私の好きな場所【喫茶クロカワ】

建築探訪大好きなスタッフの小林です。

先日、家づくりアドバイザーとICスタッフで揃って、ウッドワンの新製品の確認と製品特徴について勉強するために、ショールームに行ってきました。その帰りにちょうど近くにとても居心地のいい場所があるので、みんなを誘って行って来ました。場所は【喫茶クロカワ】。3階建てと4階建てのビルの間に挟まれながら平屋の控えめな佇まいの建物です。

http://cafekurokawa.com/

日本の建築家・戦後モダニズムの巨匠である前川國男や吉村順三が若かりしときに所属していたのがアントニン・レーモンド事務所です。(レーモンドはフランク・ロイド・ライトのお弟子さんにあたります。名古屋では南山大学の設計などもされています。)そのレーモンド事務所が設計した建物が名古屋市中区千代田にあります。(駅で言うと鶴舞駅から歩いて行ける距離です。)鉄骨造平屋のシンプルな建物、こちらはアンドリュース・アンド・ジョージ商会という会社の名古屋支店として1960年に建てられたオフィス建築です。看板はあえて当時のまま残されているのが粋ですね。とても風情があります。

そこが、今はとっても美味しい珈琲屋さんとして営業されています。12時からオープンですが、少し早めについたので、外からうろうろ。当時のものと思われるタイルや立て看板の少しコミカルな独特なフォントが渋いです。ブラインドの生地はコーヒー染めでしょうか。とても趣があります。が、5人でうろうろしているとさすがに怪しいですね、笑。

12時になって中に案内して頂きました。赤茶色錆止め塗装の鉄骨トラスをむき出しに、赤味かかったラワンベニヤとコンクリートブロックなどざらつきのあるテクスチャーを基調とした空間に懐かしい学校の教室や図工室で使われていたような家具がマッチしています。お店は店主の黒川さんがおひとりで切り盛りしているようで、席数はそんなにたくさんはありませんが、長スパンの鉄骨造ならではの絶妙にゆったりしたスケール感があります。

とはいえ、ここは喫茶店まずはコーヒーを堪能します。

珈琲豆の知識が豊富なわけではないので、恥ずかしながら違いを感じるには程遠いのですが、年季の入ったクラフトペーパーのメニュー表にしっかりと解説がされており、並々ならぬ豆へのこだわりを感じます。そしてひとりひとり丁寧にコーヒーを淹れてもらいます。

豆を挽く音や、お湯を注ぐ音、ふんわりと優しいボリュームで流れるBGMに合わさってなんともいい空間です。今回はエチオピアとクレーム・ブリュレを頂きました。(こちらのクレーム・ブリュレは絶品です!)丁寧に淹れてもらった珈琲って本当に美味しいです。何でこんなにすっきりと雑味がないんでしょうかね。みんなでコーヒーを堪能していると、弊社の陽キャ代表、佐藤が店主さんに「こちらはいつからやられてるんですか?」と話をすると、お店ができるまでのいろんな話をして下さいました。この空間自体なんと店主さん自ら1年位の時間をかけてセルフリノベーションを行ったそうです。レーモンド事務所に当時の図面を取り寄せて、既存を活かしつつ、新しい家具、調度品の設えを考えられていて空間へのこだわりも素晴らしいです!(写真に写っている天カセエアコンは鉄骨と同色で自ら塗装されたそうです。また、椅子はフレームは学校でよく使われるものを再利用して座面、背もたれはフローリングを用いています。)

棚の小口には自らベニヤを切り貼りしたりなど、もはや家具職人の目です。

いろんな話を伺っているとなんとその時の図面を見せて頂ける流れに!青焼き図面をコピーしたものですが、当時はCADなんてものはなく手描きが主流でしたので、図面の軌跡に設計者の息吹を感じます。(現状は平屋ですが、実は4階建ての構想もあったそうです、裏話。)

シンプルなモジュールで構成される鉄骨造ですが、奥行きのある建物の場合は採光面が不利になるので、そこでハイサイドライトが用いられています。今はトイレへの動線から見ることができます。拡散光の柔らかい光がハイサイドライトから室内に引き込まれます。廊下部分はラワンベニヤの壁とトラスの白い柱型がリズミカルに配置されています。

当時よりも構造があらわしになっている分、そこかしこに抜け感があって面白い空間です。そして、セルフリノベーションについて色々とお話を伺っていると店主の黒川さんもとても楽しそうです。

中にはレーモンド事務所の集合写真もあったり、レーモンド所長を中心に、若かりし前川さん、吉村さん、ジョージ中島さんなども写っています。このあたりはぜひ現地に行って頂き店主さんに見せて頂ければと思います。とはいえ、ここは珈琲屋さん。とにかく、コーヒーは絶品です。気分によって豆のチョイスを変えてひとときの至福の時間を味わってみてください。珈琲と建物に対しての店主さんの愛情が伝わる素敵な空間です。

p.s.こちらは当時のままのトイレの網入りガラス。トイレなどの水まわりは当時のまま残されていて、タイムスリップした感覚で面白いです。時をかけて育む空間つくりがいいですね。